重要性増す女性向け回復支援
市販薬大量摂取などの依存症
共感深める安心の居場所を
都内NPOの取り組みから
近年、市販薬や処方薬を過剰摂取する「オーバードーズ」(OD)によって薬物依存に陥る若者が増えており、その大半が女性だ。一方で、女性の回復支援に力を入れるNPO法人「Roots」(東京都府中市)の富永滋也代表理事は「女性向けの回復プログラムは少なく、ほとんどが"男性型"だ」と指摘する。同法人の取り組みから、女性の薬物依存を巡る現状や課題、社会のあり方などを探った。
毎日行われているミーティングでは、参加者が率直な胸の内を打ち明けていた(一部画像を処理しています)
「一日、一日、一度ずつでも生きる方向を変えられれば、いつか今と違う自分になれると思う」
毎日行われているミーティングでは、過去の自分と向き合い自身を見つめ直す「12ステップ」と呼ばれる回復プログラムを基に、参加者が順番に今の心境や意見を発言する。言いづらければ自分の番を飛ばしてもよいが、相手の発言は否定しない。それぞれが家庭環境の悩みや、再び依存してしまうのではないかという不安、信じられる仲間ができた喜びなどを赤裸々に話していた。
同法人では、女性用入所施設を運営するとともに、回復プログラムとしてボクシングなどの運動、アートワーク、旅行などを取り入れ、子ども食堂の計画も進めている。施設内には、子どもを遊ばせられる託児室も備えている。
富永氏(右端)や利用者から薬物依存の体験などを聴く竹谷氏(左から3人目)ら=5月17日
富永氏は、依存症の主な原因として孤独感や生きづらさを挙げ、さらに、女性の場合は子育てによるストレスで依存症になるケースも少なくないと話す。同法人を利用する女性Aさんは、子育て中にODとアルコールによる依存症を発症。子どもと引き離され、わが子に会えない苦しみを薬やアルコールでごまかして症状をさらに悪化させた。
子育て中に依存症になると、Aさんのように母子が引き離されてしまいがちだ。女性のひとり親も想定されることなどから、母子のためにも双方を分離せずに受けられるプログラムも必要だと富永氏は指摘する。
このほか同法人には、性被害やいじめに遭った苦しみを誰にも相談できずに、薬物に手を出してしまった女性もいる。
富永氏は「依存症は当事者だけの問題ではない。家庭環境に要因がある場合もあるし、孤独を感じてしまう地域、社会の問題でもある。特に、女性の場合は"男性優位"の社会に起因していることも多い。女性のための回復支援が広がるには、こうした社会風土を変える必要がある」と語っている。
「参加者同士が笑い合ったり、共感を深め合ったりできる。そんな、女性にとって安心の居場所づくりが今後さらに広まってほしい」(富永氏)
■公明、現場で課題探る
女性の薬物依存を巡っては公明党も、竹谷とし子女性委員長(参院議員)と松葉多美子、古城将夫の両都議らが5月にRootsを視察。富永氏や利用者らの声を聴き、支援のあり方を探った。
■救急搬送、半数が10?30代の女性/公明要請の調査で判明
風邪薬や、せき止め薬などを大量に服用すると、不整脈や意識障害などを引き起こす危険がある。公明党の要請で実施され、消防庁と厚生労働省が昨年まとめた調査(2020年1月から23年6月までの集計)では、ODが原因と疑われる救急搬送のうち10代の搬送者数は20年から22年で1.5倍に増えているほか、いずれの年も10?30代の女性が全体の約半数を占めた。