党医療制度委・女性委合同会議から
袴田拓・新百合ケ丘総合病院予防医学センター部長の講演要旨
公明党の医療制度委員会(委員長=秋野公造参院議員)、女性委員会(同=竹谷とし子参院議員)は1月18日、参院議員会館で、新百合ケ丘総合病院予防医学センターの袴田拓部長から、女性の健康と鉄分不足などをテーマに話を聴きました。講演要旨とともに、秋野委員長のコメントを紹介します。
現状・課題
摂取量減で「隠れ貧血」に
不妊に関係する可能性も
袴田氏(右端)から「女性の健康と鉄分不足」について話を聴いた(正面左から)竹谷、秋野の両委員長ら党合同会議のメンバー=1月 参院議員会館
適切な食事・食材などを通じて必要な栄養素を摂取し、細胞の働きを活性化する「分子栄養学」を、日本の医学界で広めるべきだと思っています。それは、例えば、少子高齢化や女性の健康問題を克服するためには、鉄などを中心とした栄養素戦略も不可欠と考えるからです。
日本の医学界は長年、「日本国民の栄養問題は解消している」という前提に立ち、「医薬品」や「技術」中心の対症療法を推進してきた流れがあります。その結果、私たちの身体に関わる健康問題に大きな見落としが生じているのではないかと推察します。
統計的にみても、日本は世界有数の"鉄欠乏国"。理由としては、諸外国のように、食品に鉄を添加する取り組みを日本では政策的に行っていない点や、広葉樹林の伐採などにより自然界の鉄循環が寸断され、食材から摂取できる鉄が明らかに減っていることなどが背景にあると思います。
鉄が不足すると、貧血になるイメージが強いと思いますが、私は不妊にも関係すると考えています。理由は三つあります。?女性ホルモン生成には鉄が必要?鉄欠乏では卵子がエネルギー不足になる?受精卵が発育する時に不可欠なコラーゲンが鉄不足で減ってしまう――が挙げられます。
しかし、日本の不妊治療の現場は、医薬品や技術が注目され、前述した鉄と妊娠の関係性などについて、十分に考慮していないのが現状ではないでしょうか。
日本では、「貧血がなければ鉄は足りている」「貧血が治れば、鉄の投与は終わりでいい」など、鉄不足の判断基準が貧血かどうかの2択になってしまっています。血中フェリチン値を測定して、体内に貯蔵する鉄にも注目すべきです。一般社団法人「日本鉄バイオサイエンス学会」の示す、貧血のない鉄欠乏症、いわゆる「隠れ貧血」の方は、貧血の方より2倍相当いるといわれています。隠れ貧血が、女性の不妊の温床になっているかもしれません。
必要な対策
適切な栄養アプローチを
必要な対策について提案したいと思います。健全な妊娠に必要な栄養条件を満たした上で、必要に応じて生殖補助医療を提供すべきです。
私自身、内科医として、不妊にお困りの女性を診療する際に、鉄・亜鉛をはじめ、ビタミンDの投与といった栄養面からのアプローチを行った結果、123人のうち55人が妊娠しました。中には、人工授精や顕微授精などの生殖補助医療法を試みるも妊娠せず、栄養アプローチ後に妊娠したケースも少なくありません。
そのため、まずは鉄とビタミンDの不足を補い、原則、自然妊娠を待ちます。その上で、卵子凍結も含めて生殖補助医療は、栄養状態を整えてから実施するよう勧めています。結果として、少ない回数でも成功する確率が上がります。
今後の医療行政の方向性として、妊娠における鉄の必要性を重視した新たな指針の作成や、鉄食材の普及・啓発、健診でのフェリチン(貯蔵鉄)測定の標準化などにも取り組んでいただきたいと願います。
さらに、医学教育における分子栄養学分野の拡充も検討いただければと思います。
党医療制度委員長・秋野公造 参院議員のコメント
研究推進など後押しへ
今回の勉強会は、改めて分子栄養学の重要性を確認しようと開催したものです。鉄と妊娠の関係性など、引き続き、エビデンス(科学的根拠)の積み重ねを要するものの、一つの可能性を提言する重要な講演でした。
健全な妊娠に向けて、必要な栄養を摂取しつつ、不妊治療を受けていただくことは、不妊治療、中でも生殖補助医療を適切に提供する根拠法である「生殖補助医療法」の基本理念に照らしても大切です。私自身、同議員立法の筆頭提案者を務めましたが、同法には基本理念として、女性の健康の保護や生まれ来る子どもの福祉などが明示されています。
今後、同法の基本理念を磨き上げる議論を引き続き行うとともに、「女性の健康」ナショナルセンターが2024年度に創設されることから、党女性委員会と連携し、分子栄養学の研究推進などを後押ししてまいります。